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最高裁判所第一小法廷 平成4年(行ツ)48号 判決 1992年12月10日

上告人 東京都知事 鈴木俊一

右指定代理人 林四壽男 外三名

被上告人 奥津茂樹

右訴訟代理人弁護士 飯田正剛 野澤裕昭 清水勉

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

一  上告代理人林四壽男、同金岡昭、同小林禮齊、同重富栄一の上告理由第一について

原審の適法に確定したところによれば、被上告人は上告人に対して、平成元年八月二三日、東京都公文書開示等に関する条例(以下「本条例」という。)五条に基づき、「個人情報実態調査に関して警視庁から入手、取得した一切の文書」の開示を請求したところ、上告人は、右開示請求の対象となっている文書は警視庁から提出された「個人情報保護対策の検討について」と題する文書(以下「本件文書」という。)であるとした上、被上告人に対し、「東京都公文書の開示等に関する条例第九条第八号に該当」との理由を付した同年九月五日付けの書面により、本件文書は開示しない旨を通知したというのである。

本条例七条四項は、実施機関が開示の請求に係る公文書を開示しない旨の決定をする場合には、その通知書に非開示の理由を付記しなければならない旨を規定している。一般に、法令が行政処分に理由を付記すべきものとしている場合に、どの程度の記載をすべきかは、処分の性質と理由付記を命じた各法令の趣旨・目的に照らしてこれを決定すべきである(最高裁昭和三六年(オ)第八四号同三八年五月三一日第二小法廷判決・民集一七巻四号六一七頁参照)。本条例が右のように公文書の非開示決定通知書にその理由を付記すべきものとしているのは、同条例に基づく公文書の開示請求制度が、都民と都政との信頼関係を強化し、地方自治の本旨に即した都政を推進することを目的とするものであって、実施機関においては、公文書の開示を請求する都民の権利を十分に尊重すべきものとされていること(本条例一条、三条参照)にかんがみ、非開示理由の有無について実施機関の判断の慎重と公正妥当を担保してそのし意を抑制するとともに、非開示の理由を開示請求者に知らせることによって、その不服申立てに便宜を与える趣旨に出たものというべきである。このような理由付記制度の趣旨にかんがみれば、公文書の非開示決定通知書に付記すべき理由としては、開示請求者において、本条例九条各号所定の非開示事由のどれに該当するのかをその根拠とともに了知し得るものでなければならず、単に非開示の根拠規定を示すだけでは、当該公文書の種類、性質等とあいまって開示請求者がそれらを当然知り得るような場合は別として、本条例七条四項の要求する理由付記としては十分ではないといわなければならない。

この見地に立って本条例九条八号をみるに、同号は、開示の請求に係る公文書に、「監査、検査、取締り、徴税等の計画及び実施要領、渉外、争訟、交渉の方針、契約の予定価格、試験の問題及び採点基準、職員の身分取扱い、学術研究計画及び未発表の学術研究成果、用地買収計画その他実施機関が行う事務事業に関する情報であって、開示することにより、当該事務事業の目的が損なわれるおそれがあるもの、特定のものに不当な利益若しくは不利益が生ずるおそれがあるもの、大学の教育若しくは研究の自由が損なわれるおそれがあるもの、関係当事者間の信頼関係が損なわれると認められるもの、当該事務事業若しくは将来の同種の事務事業の公正若しくは円滑な執行に支障が生ずるおそれがあるもの又は都の行政の公正若しくは円滑な運営に著しい支障が生ずることが明らかなもの」に該当する情報が記録されているときは、当該請求に係る公文書の開示をしないことができるとするものである。公文書の開示の請求は、開示を請求しようとする公文書を特定するために必要な事項を記載した請求書を提出してしなければならないとされている(本条例六条三号)ので、当該公文書の非開示理由として本条例九条八号に該当する旨の記載のみによって、開示請求者において、当該公文書の種類、性質あるいは開示請求書の記載に照らし、非開示理由が同号所定のどの事由に該当するのかをその根拠とともに了知し得る場合があり得るとしても、同号に該当する旨の記載だけでは、開示請求者において、非開示理由がいかなる根拠により同号所定のどの事由に該当するのかを知り得ないのが通例であると考えられる。これを本件についてみるに、被上告人によって前示のとおり特定された本件文書の種類、性質等を考慮しても、本件付記理由によっては、いかなる根拠により同号所定の非開示事由のどれに該当するとして本件非開示決定がされたのかを、被上告人において知ることができないものといわざるを得ない。そうであるとすれば、単に「東京都公文書の開示等に関する条例第九条第八号に該当」と付記されたにすぎない本件非開示決定の通知書は、本条例七条四項の定める理由付記の要件を欠くものというほかはない。

したがって、この点に関する原審の判断は是認することができ、論旨は採用することができない。

二  同第二について

公文書の非開示決定通知書に理由付記を命じた規定の趣旨が前示のとおりであることからすれば、これに記載することを要する非開示理由の程度は、相手方の知、不知にかかわりがないものというべきである(最高裁昭和四五年(行ツ)第三六号同四九年四月二五日第一小法廷判決・民集二八巻三号四〇五頁参照)し、また、本件において、後日、実施機関の補助職員によって、被上告人に対し口頭で非開示理由の説明がされたとしても、それによって、付記理由不備の瑕疵が治癒されたものということはできない。

これと同旨の原審の判断は相当であって、原判決に所論の違法はない。論旨は採用することができない。

よって、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 橋元四郎平 裁判官 大堀誠一 裁判官 味村治 裁判官 小野幹雄 裁判官 三好達)

上告代理人林四壽男、同金岡昭、同小林禮斉、同重富栄一の上告理由

第一点条例の規定の解釈適用の誤りについて

一 東京都公文書の開示等に関する条例の特異性

東京都公文書の開示等に関する条例(以下「条例」という。)七条四項は、実施機関は、一項の規定による開示しない旨の決定(以下「非開示決定」という。)をする場合は、二項の規定による通知書に非開示の理由を付記しなければならない、としているが、どの程度の理由を記載すべきかは、処分の性質と理由付記を命じた規定の趣旨・目的に照らして、これを決定すべきである、とされている(最高裁判所昭和三八年五月三一日第二小法廷判決・民集一七巻四号六一七頁(以下「昭和三八年最高裁判決」という。)、最高裁判所昭和六〇年一月二二日第三小法廷判決・民集三九巻一号一頁(以下「昭和六〇年最高裁判決」という。))。

したがって、非開示決定をする場合に、その通知書にどの程度の理由を記載すべきかを決定するためには、条例の規定の検討が必要となるが、次に、その手がかりとなる条例の規定をあげ、その特異性を明らかにする。

(一) この条例は、公文書の開示を請求する都民の権利を明らかにするとともに、情報公開の総合的な推進に関し必要な事項を定め、もって都民と都政との信頼関係を強化し、地方自治の本旨に即した都政を推進することを目的とする(条例一条)。この規定によって、公文書の開示を請求する権利(以下「開示請求権」という。)は、都民と都政との信頼関係を強化し、地方自治の本旨に即した都政を推進することを目的として、条例によって認められたものであることが明らかである。

また、この条例に定めるところにより公文書の開示を受けた者は、これによって得た情報を、この条例の目的に即し適正に使用しなければならない(条例四条)。したがって、開示請求権は、決して、いわゆる個人的利益のみを保護するために認められたものではないことに注意すべきである。

これに対して、昭和三八年最高裁判決の事案は、国民は、法律の定めるところにより、納税の義務を負うとされる憲法三〇条、租税法律主義を定めた憲法八四条についてのもので、また、昭和六〇年最高裁判決の事案は、外国旅行の自由を基本的人権として定めた憲法二二条二項についてのものである。これらは、いずれも、個人的利益の保護に関するものである。

(二) 東京都の区域内に存する事務所又は事業所に勤務する者は、実施機関に対して、公文書の開示を請求することができる(条例五条三号)。東京都の区域内に存する事務所又は事業所に勤務する者であれば、開示を請求しようとする公文書となんのかかわりをも必要とされていないのである。すなわち、公文書の開示を請求しようとする者は、開示の請求に係る公文書となんのかかわりもないのでその間に具体的事実というものはない。

これに対して、昭和三八年最高裁判決の事案も、昭和六〇年最高裁判決の事案も、その対象たることがらは当事者そのものと直接かかわりのあるもので、具体的な事実というものを明らかにすることができるのである。

(三) 公文書の開示を請求しようとする者は、実施機関に対して、開示を請求しようとする公文書を特定するために、必要な事項を記載した請求書を提出しなければならない(条例六条三号)。この規定によって、条例は、公文書の開示を請求するには、事前に、どのような公文書が存在するかを知っていることを前提としていることが明らかである。すなわち、条例は、開示を請求した者に開示が認められるかどうかについてある程度知り得べきものとしたのである。

これに対して、昭和三八年最高裁判決の事案も、昭和六〇年最高裁判決の事案も、その性質上、処分庁においてすべて明らかにすべきものである。

(四) 実施機関は、開示の請求に係る公文書に次の各号のいずれかに該当する情報が記録されているときは、当該公文書に係る公文書の開示をしないことができる(条例九条)。これは、公文書を開示することを原則とし、各号のいずれかに該当するものを例外として開示しないことができるとしたものである。

各号をみると、個別的に規定され、さらに、各号において、具体的に列挙して規定されている。これは、詳細に規定することによって、実施機関の裁量の余地を少なくし、かつ、開示が認められない公文書を都民等に対して明らかにしたものである。

なお、知事が管理する公文書の開示等に関する規則(昭和六〇年三月一日東京都規則第一五号)三条一項によれば、条例七条一項の規定により、公文書を開示しない旨の決定をした場合における同条二項に規定する書面は、公文書非開示決定通知書(別記第四号様式)であるとされ、第四号様式では、「2 開示しない理由」欄は、「東京都公文書の開示等に関する条例第九条第 号に該当」となっており、空いている部分に、該当する号数を記入するようになっている。

これに対して、昭和三八年最高裁判決において問題とされている所得税法(昭和三七年法律六七号による改正前のもの) 四五条二項によって付記しなければならないとされた更正の理由については、具体的に規定はなく、また、昭和六〇年最高裁判決において問題とされている旅券法一四条によって付記しなければならないとされた一般旅券発給拒否理由については、同法一三条一項五号に規定があるが、これは、概括的、抽象的である。

(五) 開示の請求に係る公文書を開示する旨又は開示しない旨の決定について、行政不服審査法の規定に基づく不服申立てがあった場合は、当該不服申立てに係る処分庁又は審査庁は、原則として、東京都公文書開示審査会に諮問して、当該不服申立てについての決定又は裁決を行うものとする(条例一二条)。一二条に規定する諮問に応じて審議を行わせるため、東京都公文書開示審査会(以下「審査会」という。)を置く(条例一三条一項)。審査会は、第一項に規定する審議のため必要があると認めた場合には、不服申立人、実施機関の職員その他関係者の出席を求めて意見若しくは説明を聴き、又は必要な調査をすることができる(同条五項)。

これは、審査会という別の機関を置いて審議を行わせ、また、行政不服審査法による不服申立の審理が原則として書面によることとされていることとは異なっている(行政不服審査法二五条、 四八条)。

二 東京都公文書の開示等に関する条例七条四項の定める付記すべき理由の程度

一般に、法が行政処分に理由を付記すべきものとしているのは、処分庁の判断の慎重・合理性を担保してその恣意を抑制するとともに、処分の理由を相手方に知らせて不服の申立てに便宜を与える趣旨であると解されている(昭和三八年最高裁判決)。

条例七条四項が非開示決定をする場合における通知書に非開示の理由を付記しなければならないとしているのも、同じ趣旨によるものと考えられる。そこで、次に、この趣旨を前提に、条例七条四項が定める付記すべき理由の程度について、右一で述べた条例の規定の特異性をもとにして検討することとする。

(一) まず、実施機関が非開示を決定する場合に、判断の慎重・合理性を担保してその恣意を抑制するためには、その通知書にどの程度の理由を付記すればよいかを考えてみる。

一(三)で指摘したように、公文書の開示を請求しようとする者は、請求書に開示を請求しようとする公文書を特定するために必要な事項を記載しなければならないとされており(条例六条三号)、公文書の開示を請求しようとする者は、事前に、開示を請求しようとする公文書について知識を有していることが必要とされている。公文書の開示を請求した者がその開示の請求に係る公文書について知識を有していることになれば、実施機関としても非開示決定の判断をするには慎重にならざるを得ず、その恣意は抑制される。

また、一(四)で指摘したように、条例九条は、開示しないことができる公文書について、各号に、個別的に、詳細な規定を置いている。そして、本件において問題とされる八号にしても、開示しないことができる公文書を具体的に列挙している。

条例は、開示を請求された公文書は、原則として開示することとしているので、このように、開示しないことができる公文書を具体的に明らかにしていることは結局のところ、実施機関が公文書を開示するか開示しないかを決定するについての裁量の余地をほとんどなくしているといえるのである。また、開示を請求した者と開示の請求に係る公文書との間には、一般的には、なんの関係もないので、開示の請求に係る公文書を開示するか開示しないかを決定するについて、その間に考慮されるべきものはなく、したがって、ある者には開示するが他の者には開示しないということはあり得ず、開示することができるか開示しないことができるかはその公文書自体によってすでに決まっているのである。

このようにみてくると、実施機関が非開示決定をする場合、その通知書に非開示の理由として、単に九条各号のいずれかに該当する旨を記載するだけでよいとしたからといって、実施機関の判断が抑制的になったり、恣意に流れるおそれがあるということにはならない。

(二) 次に、実施機関が非開示決定をする場合に、非開示の理由を開示を請求した者に知らせて不服申立てに便宜を与えるためには、その通知書にどの程度の理由を付記すればよいかを考えてみる。

一(三)で指摘したように、条例そのものが、公文書の開示を請求した者にその公文書についての知識があることを前提としている。

また、一(四)で指摘したように、条例九条は開示しないことができる公文書について具体的に規定している。

さらに、一(五)で指摘したように、条例は、不服申立てについて十分な配慮をしている。すなわち、審査会を置き、そこでお互いが自由に意見等を述べあうことができるようにしている。

このようにみてくると、実施機関が非開示決定をする場合、その通知書に非開示の理由として、単に条例九条各号のいずれかに該当することのみを記載すれば、開示を請求した者に知らせて不服申立てをするについて便宜を与えたことになるといえる。条例は、公文書の開示をした者が知っていることあるいは知り得べきことについては、知らせる必要がないとしたものと解すべきである。

以上により、条例七条四項の規定は、実施機関が非開示決定をする場合、その通知書に非開示の理由として、単に条例九条各号のいずれかに該当することを記載すれば違法とはならないとしたものであると解釈すべきである。

昭和六〇年最高裁判決では、例外としてではあるが、単に一般旅券発給拒否の根拠規定を示すことによって当該規定の適用の基礎となった事実関係をも当然知りうるような場合は、その根拠規定を示すだけで理由付記として十分であるとする。非開示決定の場合、これまで述べたように、単に条例九条各号のいずれかに該当することを示すだけでその規定の適用の基礎となった事実関係をも当然知りうるともいえ、この最高裁判決の判示は参考とされるべきである。

三 原判決の誤り

原判決には、次に述べるとおり、条例の規定の解釈適用を誤り、ひいては審理不尽の違法があり、この違法が判決に影響を及ぼすことは明らかである。

(一) 原判決は、条例が理由付記を命じた右の趣旨からすれば、七条四項が定める付記すべき理由の程度は、その対象の公文書の性質自体等から、九条各号のいずれかに該当する旨を記載すれば明確にその具体的理由が読み取れ、七条四項の要求する付記すべき理由として十分その要件を満たす場合が存することはあり得るとしても、一般的には、単に条例九条各号のいずれかに該当することのみを記載するだけでは足りず、いかなる理由で右条項に該当するかを具体的事実に基づいて記載しなければならないと解すべきであり、そして、右の七条四項の趣旨・目的からすれば、右の理由付記の程度は、開示請求者が処分理由を推知できると否とにかかわらず要求されるものである、とする。

この判決は、条例の特異性を全く無視し、一見して明らかなように、形式的に昭和六〇年最高裁判決で示された理論を借用したものである。

昭和六〇年最高裁判決は、いうまでもなく、一般旅券の発給を拒否すれば、憲法二二条二項で国民に保障された基本的人権である外国旅行の自由を制限することになるため、厳格に解すべきであるとしたものである。そして、このことから、昭和六〇年最高裁判決では、一般旅券発給拒否通知書に付記すべき理由としては、いかなる事実関係に基づきいかなる法規を適用して一般旅券の発給が拒否されたかを、申請者においてその記載自体から了知しうるものでなければならず、単に発給拒否の根拠規定を示すだけでは、それによって当該規定の適用の基礎となった事実関係をも当然知りうるような場合は別として、旅券法の要求する理由付記として十分でない、とされたのである。

しかし、本件の事案は、昭和六〇年最高裁判決の事案とは異なり、また、その根拠規定の性質も違うのであり、本件について、原判決のように、昭和六〇年最高裁判決の理論を適用することはできない。

これまでに明らかにしたように、開示を請求した者についての事実関係はあり得ないので、実施機関が非開示決定をする場合において、その通知書に非開示の理由として、この点での具体的事実の記載を求めることは不能を強いるものである。ただ、事実があるとすれば、開示を求められた公文書についてのものであるが、この事実を規定したのが条例九条の各号である。これは、具体的であり、条例は九条各号のどれに該当するかを記載することによって事実を示せばよいとしたのである。

また、これもすでに述べたように、条例は、公文書の開示を請求した者にその公文書についての知識があることを前提としているので、その開示を請求した者において通知書の記載自体から了知しうるものでなければならないということにはならない。

したがって、開示請求者が処分理由を推知できると否とにかかわらず、いかなる理由で条例九条各号に該当するかを具体的事実に基づいて記載しなければならないとする原判決は、条例の規定の解釈適用を誤ったものといわざるを得ない。

(二) 原判決は、本件について、条例九条八号は、一号から七号までの要件に該当しないが、開示しないことが相当である場合について、その前段で対象文書の範囲の側面から、後段で文書を開示することによって生じる障害事由の側面から、複数の対象文書及び複数の障害事由をいずれも包括的に規定しており、非開示の理由として、単に九条八号に該当と記載したのみでは、本件文書が九条八号前段の定めるどの文書に該当するのか、また、いかなる事実によりどの障害事由が存するのか全く不明であるという他はなく、条例七条四項が求める付記すべき理由としては不備である、とする。

この判決は、条例の特異性及び本件事案の背景を全く考慮しないで、抽象的に本件非開示決定通知書の記載のみをとり出してきて、本件文書が九条八号前段の定めるどの文書に該当するのか、また、いかなる事実によりどの障害事由が存するのか全く不明であるとするが、次に明らかにするように、この判断は誤っているといわざるを得ない。

公安委員会は情報公開の実施機関とはされていないため(条例二条一項参照)、警視庁の職員が職務上文書を作成してもその文書は情報公開の対象たる公文書とはされない(同条二項参照)。したがって、被上告人が開示請求の対象とした文書(以下「本件文書」という。)は、本来的には情報公開の対象たる公文書ではなかった。しかし、知事部局たる東京都総務局が、個人情報保護対策の検討の参考とするため、提出に難色を示していた警視庁を説得して取得し管理していたため公文書とされたのである(条例二条二項参照)。

被上告人は、情報公開法を求める市民運動と称する団体の事務局長として、情報公開法の制定を求める運動を行っており、条例による公文書開示の制度・内容について熟知している者であって、右のような事情を知りながら、平成元年八月二三日、上告人に対して、その対象たる文書を「個人情報実態調査に関して警視庁から入手、取得した一切の文書」として、条例による開示の請求をした(以下「本件開示請求」という。)が、この文書は、正確には、「個人情報保護対策の検討について」と題するものであった。

このように、本件文書そのものから、九条八号でいう「実施機関が行う事務事業に関する情報であって」、「関係当事者間の信頼関係が損なわれると認められるもの」であることが明らかであり、また、そのことを被上告人が知っていたため、本件開示請求に対して、上告人は非開示決定をするについて、その通知書に非開示の理由として、単に「条例九条八号に該当」とのみ付記したのである。

したがって、本件においては、非開示事由の有無についての上告人の判断が抑制的になったり、恣意に流れるおそれは全くなく、また、被上告人が不服申立をするについてなんらの支障も生じなかったのである。

第二点理由不備の違法について

一 上告人の原審における主張

上告人は、原審において、本件文書が、元来条例の実施機関ではない警視庁によって作成された文書であることから、開示請求者である被上告人は当然その非開示理由を推知できたというべきであるから、条例の当該条項以外に特段の理由を付記する必要はなかった旨、また、被上告人が非開示理由を推知できなかったとしても、口頭により補充的に説明を受ければ理由は判明するのであるから、条例七条四項による理由付記としては右以上の理由を付記する必要はない旨、そして、現に、被上告人は、本件決定の通知を受けた後である平成元年九月一四日、上告人の担当職員から本件非開示決定の理由の説明を受けた際、既にその理由を認識しており、その上、上告人の担当職員が被上告人に対し、本件文書は外部に公表しないことを条件に、警視庁から取得した情報であり、開示すれば、都と警視庁との協力、信頼関係は損なわれるとともに、今後、個人情報保護制度確立に向けての上告人の事務の円滑な執行に著しい支障が生ずる旨を説明したから、本件決定の理由付記には不備がない旨主張した。

二 原判決の判断

原判決は、条例が理由付記を命じた趣旨からすれば、七条四項が定める付記すべき理由の程度は、その対象の公文書の性質自体等から、九条各号のいずれかに該当する旨を記載すれば明確にその具体的理由が読み取れ、七条四項の要求する付記すべき理由として十分その要件を満たす場合が存することはあり得るとしても、一般的には、単に条例九条各号のいずれかに該当することのみを記載するだけでは足りず、いかなる理由で右条項に該当するかを具体的事実に基づいて記載しなければならないと解すべきである。そして、右の七条四項の趣旨・目的からすれば、右の理由付記の程度は、開示請求者が処分理由を推知できると否とにかかわらず要求されるものであり、理由付記が不備な場合には、口頭の説明により具体的な理由が補充されたとしても、それによってその瑕疵が治癒されるものではなく、非開示決定は取消しを免れない、とする。

すなわち、原判決は、七条四項の趣旨・目的からすれば、右条項の理由付記の程度は、開示請求者が処分理由を推知できると否とにかかわらず要求されるということを前提にして、上告人の主張をすべて排斥している。

しかし、次に述べるとおり、この判断は誤っている。

三 原判決の誤り

本件非開示決定は、第一点において述べたように、理由付記の点においてなんらの不備もなく、適法なものであるが、仮に、本件非開示決定を行う場合、単に条例九条八号に該当と記載しただけでは、条例七条四項の定める理由付記としては不十分であったとしても、以下に述べるとおり、これにより、本件非開示決定を取消さなければならないほどの瑕疵があるということにはならない。

(一) 条例七条四項は、開示の請求に係る公文書を開示しない旨の決定をする場合には、その通知書に非開示の理由を付記しなければならない旨定める。

この場合の理由付記の程度については、第一点で述べたように、単に条例九条各号のいずれかに該当することを記載すれば違法とならないものと解すべきであるが、仮に、右記載だけでは理由付記として不十分であったとしても、条例の規定の特異性からみて、第一点、二(一)で述べたように、実施機関が非開示決定をする場合、その通知書に非開示の理由として、同条の該当する号数を記載することにより、実施機関の判断の慎重・合理性が担保され、その恣意が抑制される効果が生じることには変わりはない。

そうすると、非開示決定をする場合、その通知書に非開示の理由として、同条の該当する号数を記載することにより、実施機関の判断の慎重・合理性は担保され、その恣意が抑制されることとなる。

したがって、本件非開示決定の場合、理由付記として、条例九条八号に該当する旨の記載があれば、理由付記の目的の一つである行政庁の恣意抑制機能は十分に確保されているといえる。

(二) そこで、被上告人が処分時点において、非開示理由を推知していたか否かについて考えてみる。

すでに述べたように、公文書の開示請求制度は、もともと開示請求者が開示を求めた公文書についてある程度の知識を有していることを前提としているものであるが、本件の場合には、第一点、三(二)で述べたように、被上告人は、本件文書が九条八号にいう「実施機関が行う事務事業に関する情報であって」、「関係当事者間の信頼関係が損なわれると認められるもの」であることを知っていたのである。

すなわち、被上告人は、本件非開示決定の通知を受けた時点で、処分理由を推知していたのである。

したがって、本件の場合、非開示決定の理由として条例九条八号に該当するとの記載しかなかったとしても、被上告人が不服申立てをするについてはなんの支障も生じなかったのであるから、処分の理由を相手方に知らせて不服申立てに便宜を与えるという理由付記のもう一つの目的も十分に確保されているといえる。

そうすると、仮に、一般的には、条例九条八号該当とだけしか記載されていない本件非開示決定の理由付記に不十分な点が存したとしても、被上告人との関係においては、本件非開示決定を取消さなければならないほどの瑕疵はない。

(三) 次に、被上告人が処分後において、非開示理由を了知したことにより、瑕疵が治癒したか否かについて考えてみる。

1 本件の場合、被上告人が本件非開示決定の通知書を受領してから数日後の平成元年九月一四日に、右通知書を持参して来庁したので、上告人の担当職員が、被上告人に対して、非開示の理由について口頭により説明をした。

したがって、被上告人が本件非開示決定の通知を受けた時点で、仮に、処分理由を推知していなかったとしても、右説明により、被上告人は、右理由を十分に了知したことは明らかである。

原判決は、このような場合についても、仮に理由付記に不備があった場合には、その瑕疵は治癒されないとする。

2 一般的に、行政処分の瑕疵が治癒されるかどうかは、法が処分の要件を規定した趣旨・目的、ことに処分の公正、利害関係人の利益の保護が全うされるか否かによって決定されるべきであると解される。

この点について、自作農創設特別措置法による農地の買収処分に関し、公告手続上の瑕疵は買収対価の受領段階においてあらためて令書を交付したと実質的に同視しうるような告知行為により補正ないし治癒されるにいたった、とする最高裁判所昭和五四年三月三〇日第二小法廷判決・判例時報九二四号四〇頁があるが、これは無効原因としての瑕疵がある行政処分について瑕疵の治癒を認めるものであり、注目に値するものと考える。

3 本件非開示決定の場合、すでに述べたように、処分理由として、条例九条八号に該当する旨の記載があれば、理由を付記する目的の一つである行政庁の恣意抑制機能は確保されているのである。

そうすると、仮に、原判決のいうように、本件非開示決定について理由付記に不備があったとしても、右決定後において、理由付記のもう一つの目的である処分の理由を相手方に知らせて不服の申立てに便宜を与える機能が十分に担保され、もって、処分の公正、利害関係人の利益の保護が全うされる場合には、その瑕疵は治癒されることとなる。

そして、本件の場合、被上告人は、右1で述べたように、本件非開示決定と極めて接近した時期に、上告人の担当職員から非開示の理由について、口頭による説明を受け、処分理由を十分に了知したことは明らかであるから、理由付記の有する不服申立便宜機能は、実質的に、十分確保されており、被上告人の利益の保護に欠けるところはない。

したがって、本件非開示決定に理由付記の不備があったとしても、その瑕疵は口頭の説明により補正ないし治癒されているので、本件非開示決定を取消さなければならないほどの瑕疵はない。

(四) 以上述べたとおり、原判決のこの点についての判断は、条例七条四項の解釈適用を誤った結果、理由不備の違法を犯したものである。

以上いずれの点よりするも原判決は違法であり、この違法は原判決に影響を及ぼすことの明らかなものであり、破棄を免れない。

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